2010年8月25日水曜日

お盆の法話(特別養護老人ホーム 延寿にて)

また、暑い夏がやってきました、そして今日は15日ですから、お盆の最後の日ですが、終戦記念日でもありますね。若い人にとっては、終戦記念日というのはもう経験したことのない話ですけれども、延寿のお年寄りの皆さんの多くの方は戦争を色んな形で体験されてこられたことと思います。

さて、夏のお盆というのは、亡くなったご先祖様を供養する法要です。人間や生き物というのは亡くなれば必ずと言っていいほど一旦は地獄へ落ちるものです。罪の重い軽いによって、閻魔さんのお裁きを受けてどの地獄に行くかが決まるそうですが、その地獄では供養をしたり自ら努めたりすれば次はいいところへ生まれ変わる、ということで、生き物は「六道輪廻」といって、天や人間、阿修羅、畜生、餓鬼、地獄とずっと何度も生まれたり死んだりするのです。生き物は生まれて亡くなると、また長い時間をかけて新しい生を受け、それをずっと繰り返し、そういう風にして生きている命というのはずっとつながっています。私たちが生きているというのもご先祖様がいらしたから生きているわけです。これから自分がどうなるか、未来のことというのは、予測することはできるけれども確実にそうなるとは決まらないものです。「私は100歳まで生きるぞ」と思っていても、98歳で死ぬかも分からないし、「私は80でいいわ」と思っていても、100歳まで生きる人もありますから、なかなか予測はできたとしても、実際にはそうなるとは限らないものです。世の中もまた同じですね。ところが過去というのは、これはもう過ごしてきたことですから、変わりません、事実ですから。私を生んだお父さん、お母さんがいた、ということを、いや、なかったことにしよう、としたら、これは自分もなかったことになってしまいますからね。お父さんお母さんがどんなことをしてくれたのか、そのおかげをもって私たちは生きているわけですから、そういう意味でいえば過去というのは確実にはっきりとした事実としてあるわけです。ではその過去というのはどこまでさかのぼって分かるか、これはなかなか難しいことです。100年前までのことであればまぁ大体記録として残っている。300年前、江戸時代のことでも書いたものとして残っているものも多いでしょう。さぁ鎌倉時代、奈良時代・・・それより前となってきたらどうでしょう。日本の歴史というのは私たち学生の時分に習いましたけれども、古事記とか日本書紀とか、本当か嘘か分からない、というようなことを昔は言ったものでありますが、実は意外とあの神話に近いようなものでも結構歴史的事実が含まれているということもよくあります。


昨日の朝日新聞の第一面(8月14日)に、「最古の建材が健在—奈良・元興寺、西暦586年頃のヒノキ、飛鳥寺から」という記事が載っています。そして奈良版のところにも、「修理の年輪刻む禅室、元興寺に飛鳥期の木材」と書かれています。元興寺というのは日本に仏教が伝わってきて最初にできた本格的なお寺、それは多くの歴史学者が認めているところで定説であります。「日本で一番古いお寺はどこですか?」これは知らない人もたくさんいますが、これは飛鳥寺です。またの名前を法興寺ともいいますが、元興寺ともいうんですね。よく日本で古いお寺、といいますと、法隆寺とか、あるいは四天王寺とかいう人もありますが、歴史的な事実として一番古いのは、飛鳥寺なんです。その飛鳥寺が、平城京に遷都された時に、都に移ってきました。実は今はもう元興寺は街の中にぽつんと残っているだけですが、本当は大きなお寺だったんです。その大きなお寺が、飛鳥寺が移ってきたお寺だ、ということは大体分かっていたのですが、それは奈良時代に、移った時に新しく建てたのだろうと思われていました。でもその当時瓦は大変重要なものであったから、飛鳥寺の瓦を持ってきてお寺の屋根に載せたのだろう、ということがだんだんと修理をしているうちに分かってきたんです。ところが、更に古いことが分かってきて、木には年輪があって、年輪を見るとこれは何年に切ったのかということが分かるというように研究が進んできました。そうすると、今元興寺の柱には、飛鳥時代の飛鳥寺の柱が使われている、奈良時代に新しく建てたというよりは、飛鳥寺からそのまま持ってきたに近いぐらいに古いお寺だということが分かりました。そんな古い、日本で一番歴史の長いお寺の住職さんに、今日はお塔婆の供養をしていただきました。元興寺の泰善住職がいつもここで、みなさんのご先祖様の供養を私と一緒にしてくださっています。ご先祖様の供養をするのに、今日は聖観音さんをご本尊にして、右のところにはお地蔵様の刷り物を掲げていますが、この刷り物というのは棟方志功さんという、世界的に有名な版画家が元興寺のために刷って下さったお地蔵さんの版画です。お地蔵さんは「地獄で仏に出会う」といいますが、地獄で救ってくれるのはお地蔵さんです、そして塔を建てて、そこにご先祖様のお名前を書いて、お水をかけてあげると、地獄に行っているかも知れないご先祖様に、供養をしたお水が届くということなのです。そういう願いを込めて供養をさせていただきました。どうぞみなさまも、お元気でお過ごしください。